甘美な果実
誰にも気づかれないままリビングに顔を出そうとした時、タイミングが良いのか悪いのか、異変を感じたらしい一人がそこから出てきた。母親だ。ケーキではない。俺と目が合った母親の顔色が、一瞬にして悪くなる。恐ろしいものでも見たかのような目。血の気が引いていく顔。今にも声を上げようとする口。
俺は怖がらせるつもりはないことを口角を持ち上げることで伝えつつ、俺の顔を見て悲鳴を上げそうになる母親の頸動脈を、ポケットから引っ張り出したナイフでさっさと切った。騒がれては迷惑だ。全員が状況を把握し切る前に処理しなければ。
母親が床に倒れた。俺はリビングに足を踏み入れた。ここは五人家族だ。父親。母親。高校生の息子二人。中学生の娘一人。見ると、四つの顔がある。八つの目が俺と母親を行き来している。珍しい。全員が一室に揃っているだなんて。なんて、ありがたいことなのだろう。移動する手間が省けた。まとめて一気に殺せる。状況が飲み込めていない今のうちに片す。
俺の一番近くにいた娘の首を、躊躇なく狙った。ケーキはこの娘でもない。娘は最後でもよかったが、それだと一番、受けるショックが大きいはずだ。何が起きているのか理解する前に殺しておいた方がいい。俺なりの優しさだ。気遣いだ。衝撃が怒涛の如く襲いかかる前に思考を殺すことは。
残りの男三人を見た。その内、ケーキなのは次男だ。目を見て、笑って見せた。次男だけでなく、その場でまだ息をしている全員の顔色が悪くなった。どうやら俺は、上手く笑えていないらしい。いつまで経っても上手に笑えない。目が笑っていないから、見た人を意図せず青褪めさせてしまうのだろうか。
俺は怖がらせるつもりはないことを口角を持ち上げることで伝えつつ、俺の顔を見て悲鳴を上げそうになる母親の頸動脈を、ポケットから引っ張り出したナイフでさっさと切った。騒がれては迷惑だ。全員が状況を把握し切る前に処理しなければ。
母親が床に倒れた。俺はリビングに足を踏み入れた。ここは五人家族だ。父親。母親。高校生の息子二人。中学生の娘一人。見ると、四つの顔がある。八つの目が俺と母親を行き来している。珍しい。全員が一室に揃っているだなんて。なんて、ありがたいことなのだろう。移動する手間が省けた。まとめて一気に殺せる。状況が飲み込めていない今のうちに片す。
俺の一番近くにいた娘の首を、躊躇なく狙った。ケーキはこの娘でもない。娘は最後でもよかったが、それだと一番、受けるショックが大きいはずだ。何が起きているのか理解する前に殺しておいた方がいい。俺なりの優しさだ。気遣いだ。衝撃が怒涛の如く襲いかかる前に思考を殺すことは。
残りの男三人を見た。その内、ケーキなのは次男だ。目を見て、笑って見せた。次男だけでなく、その場でまだ息をしている全員の顔色が悪くなった。どうやら俺は、上手く笑えていないらしい。いつまで経っても上手に笑えない。目が笑っていないから、見た人を意図せず青褪めさせてしまうのだろうか。