甘美な果実
瞬くんのことを想像して、唇を舐める。瞬くんが待っている。腹を空かせた瞬くんが、俺を、この首を、待ち侘びている。猿轡を涎で濡らして。その隙間から涎を垂らして。待ち望んでいる。食事の時間は近い。
僅かに繋がっている残りの繊維を引き千切るようにして、俺はケーキの首を胴体から切り離した。一息吐く。体力を消耗する大変な作業だが、瞬くんのことを思えば、これくらいの労働など酷い苦にはならなかった。
切断した生首をその場に立て、今度は自分の大好物を入手しようと首のないケーキの服を雑に剥いだ時、どこからか視線と気配を感じて顔を上げた。自分の背後の方からだ。振り返る。リビングの出入り口に人がいた。この家族の一人ではない。作業に没頭しすぎて、何の音も聞こえなかった。不法侵入者に気づかなかった。
自分の行動や姿を予定外の人間に見られてしまったとしても、慌てることはなかった。偶然だが、このようなシチュエーションは、前回も経験したことがある。瞬くんが食べたケーキの首を切断していた時だ。いつも瞬くんの隣を歩いていた人が現れたのは。
まさか二回続けてそれと似たような現象が起こるとは思わなかった。今俺を見ている彼もまた、このケーキとよく連んでいる人だった。ケーキが身の回りの異変に目敏く気づき、相談でもしていて。もしもの時の対処法でも考案していたのかもしれないが、残念ながら無意味だ。邪魔者は消す。必ず。一回目と同じように。
不法侵入をしてまで駆けつけてきた彼を、安心させるように笑って見せた。彼が息を詰めた。また笑えていないのだろうかと両手で頬を持ち上げた。彼は怯えたように唇を震わせ、一歩、後退った。でも、ちょうどそこにできていた、母親によって作られた血溜まりを踏んでしまい、派手に足を滑らせ格好悪く尻餅をついてしまう。彼は顔面蒼白になっていた。
僅かに繋がっている残りの繊維を引き千切るようにして、俺はケーキの首を胴体から切り離した。一息吐く。体力を消耗する大変な作業だが、瞬くんのことを思えば、これくらいの労働など酷い苦にはならなかった。
切断した生首をその場に立て、今度は自分の大好物を入手しようと首のないケーキの服を雑に剥いだ時、どこからか視線と気配を感じて顔を上げた。自分の背後の方からだ。振り返る。リビングの出入り口に人がいた。この家族の一人ではない。作業に没頭しすぎて、何の音も聞こえなかった。不法侵入者に気づかなかった。
自分の行動や姿を予定外の人間に見られてしまったとしても、慌てることはなかった。偶然だが、このようなシチュエーションは、前回も経験したことがある。瞬くんが食べたケーキの首を切断していた時だ。いつも瞬くんの隣を歩いていた人が現れたのは。
まさか二回続けてそれと似たような現象が起こるとは思わなかった。今俺を見ている彼もまた、このケーキとよく連んでいる人だった。ケーキが身の回りの異変に目敏く気づき、相談でもしていて。もしもの時の対処法でも考案していたのかもしれないが、残念ながら無意味だ。邪魔者は消す。必ず。一回目と同じように。
不法侵入をしてまで駆けつけてきた彼を、安心させるように笑って見せた。彼が息を詰めた。また笑えていないのだろうかと両手で頬を持ち上げた。彼は怯えたように唇を震わせ、一歩、後退った。でも、ちょうどそこにできていた、母親によって作られた血溜まりを踏んでしまい、派手に足を滑らせ格好悪く尻餅をついてしまう。彼は顔面蒼白になっていた。