甘美な果実
求めていたケーキを前に恍惚としてしまいそうになりながらも、俺は今一度気を引き締めた。首と一緒に家に持ち帰るまでは気を抜くわけにはいかない。瞬くんとの食事まであと僅かであっても、最後の最後までしっかりやり遂げる。その先にご褒美が待っているのだ。この貴重なケーキが、自分へのご褒美だ。
瞬くんに与える生首と、自分に与える心臓を持ち、俺は六つの死体をそのままにリビングを出て、廊下を歩いた。本来であれば死体は五つで済んだのに。後からやってきた余所者は、残念な人だ。不運な人だ。可哀想な人だ。関わらなければ、わざわざ駆けつけなければ、死ぬことなどなかったのだから。
生首と心臓を抱えたまま、それらがしまえるくらいのサイズの段ボールを探し出し、肉切り包丁と同じように勝手に拝借した。段ボールがなければ適当な袋を貰うつもりだったが、前回と同様、今回も段ボールがある家で一安心だ。中身が見えてしまう恐れのある袋よりも、開けるまで中身も見えず、直方体で形を保てる段ボールの方が、個人的には使い勝手が良いのだ。
比較的綺麗な段ボールの中に、さっさと食糧を詰めた俺は、それを両手で大事に持って。死体となった複数の人間を囲う家を後にした。その足で、瞬くんの待つ家へ。俺が一番仲良くしたい瞬くんの待つ家へ。
瞬くん。瞬くん。今夜は数ヶ月に一度の御馳走だ。瞬くんの好きな生首と、俺の好きな心臓。どちらもケーキの部位であり、且つ、フォークである俺と瞬くんにとっては、唯一味のあるものだ。俺の好物も、瞬くんの好物も、大きさは違えど、漏れなくどちらも、虜になるほど癖になる、甘美な果実だった。
高揚感に唇を舐めながら、今日あったことを、瞬くんにはまだ話せていない、瞬くんはまだ知らない、過去に瞬くんがよく連んでいた人が既に死んでいることを、邪魔をしてきたから俺が殺したことを、似た出来事が起きたのを機に、話そうと思った。仲の良い友人とするような取るに足らない雑談だ。俺は瞬くんと、誰よりも仲良くなりたいのだ。
「待ってて、瞬くん」
END
瞬くんに与える生首と、自分に与える心臓を持ち、俺は六つの死体をそのままにリビングを出て、廊下を歩いた。本来であれば死体は五つで済んだのに。後からやってきた余所者は、残念な人だ。不運な人だ。可哀想な人だ。関わらなければ、わざわざ駆けつけなければ、死ぬことなどなかったのだから。
生首と心臓を抱えたまま、それらがしまえるくらいのサイズの段ボールを探し出し、肉切り包丁と同じように勝手に拝借した。段ボールがなければ適当な袋を貰うつもりだったが、前回と同様、今回も段ボールがある家で一安心だ。中身が見えてしまう恐れのある袋よりも、開けるまで中身も見えず、直方体で形を保てる段ボールの方が、個人的には使い勝手が良いのだ。
比較的綺麗な段ボールの中に、さっさと食糧を詰めた俺は、それを両手で大事に持って。死体となった複数の人間を囲う家を後にした。その足で、瞬くんの待つ家へ。俺が一番仲良くしたい瞬くんの待つ家へ。
瞬くん。瞬くん。今夜は数ヶ月に一度の御馳走だ。瞬くんの好きな生首と、俺の好きな心臓。どちらもケーキの部位であり、且つ、フォークである俺と瞬くんにとっては、唯一味のあるものだ。俺の好物も、瞬くんの好物も、大きさは違えど、漏れなくどちらも、虜になるほど癖になる、甘美な果実だった。
高揚感に唇を舐めながら、今日あったことを、瞬くんにはまだ話せていない、瞬くんはまだ知らない、過去に瞬くんがよく連んでいた人が既に死んでいることを、邪魔をしてきたから俺が殺したことを、似た出来事が起きたのを機に、話そうと思った。仲の良い友人とするような取るに足らない雑談だ。俺は瞬くんと、誰よりも仲良くなりたいのだ。
「待ってて、瞬くん」
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