甘美な果実
常軌を逸した犯人は、普通の人間すら殺してケーキを喰っている。恐らく一家を皆殺しにした後に、目的であろうケーキを喰っているのだ。味わっているのだ。
ケーキを食べないように我慢している俺は一体何なのか。異常者は異常者らしい方法で欲求を満たしているというのに、堪えてばかりで何もしようとしない俺は一体何なのか。馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだと開き直りそうになったが、殺してまで食べようなどとは思わなかった。
まだ、大丈夫だ。まだ、余裕がある。まだ、隙間がある。まだ、異常者を異常者だと思えている。俺はそこまで零落れてはいない。
自分を守るためであったとしても、俺は未だに一線を越えられなかった。超えないよう、無意識のうちにストップをかけているようだった。心理的な問題だった。
ここ最近は、ふとした時に、同じクラスである篠塚を食べたいと思うことがある。その衝動が日に日に強くなっている。今日も例外ではない。見て見ぬ振りをし続けていたが、それができないほどに欲求は大きくなっていた。
学校の昼休みの時間帯。母親が作ってくれた弁当を少量食べただけで、俺の手は止まってしまっていた。腹は空いているはずなのに、食べる気にならない。食べる気になれない。
カレンダーはもう七月だ。夏の暑さが食欲を失せさせているのだろうかとも思ったが、それは自分以外の人にも共通する理由が欲しいだけの願望に過ぎなかった。すぐ近くに俺にとって美味しい食材があるのに、味のしない物を食べなければならないのは、ある種の拷問のよう。
左手に持った箸で意味もなくおかずを突きながらも、目は自然と篠塚のことを探していた。本人には到底言えないが、どの部分でもいいから食べたくて仕方がない。指の先でもいいから食べさせてほしい。舌の先でちょっとだけでも舐めさせてほしい。それだけでも違うはずなのに。
ケーキを食べないように我慢している俺は一体何なのか。異常者は異常者らしい方法で欲求を満たしているというのに、堪えてばかりで何もしようとしない俺は一体何なのか。馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだと開き直りそうになったが、殺してまで食べようなどとは思わなかった。
まだ、大丈夫だ。まだ、余裕がある。まだ、隙間がある。まだ、異常者を異常者だと思えている。俺はそこまで零落れてはいない。
自分を守るためであったとしても、俺は未だに一線を越えられなかった。超えないよう、無意識のうちにストップをかけているようだった。心理的な問題だった。
ここ最近は、ふとした時に、同じクラスである篠塚を食べたいと思うことがある。その衝動が日に日に強くなっている。今日も例外ではない。見て見ぬ振りをし続けていたが、それができないほどに欲求は大きくなっていた。
学校の昼休みの時間帯。母親が作ってくれた弁当を少量食べただけで、俺の手は止まってしまっていた。腹は空いているはずなのに、食べる気にならない。食べる気になれない。
カレンダーはもう七月だ。夏の暑さが食欲を失せさせているのだろうかとも思ったが、それは自分以外の人にも共通する理由が欲しいだけの願望に過ぎなかった。すぐ近くに俺にとって美味しい食材があるのに、味のしない物を食べなければならないのは、ある種の拷問のよう。
左手に持った箸で意味もなくおかずを突きながらも、目は自然と篠塚のことを探していた。本人には到底言えないが、どの部分でもいいから食べたくて仕方がない。指の先でもいいから食べさせてほしい。舌の先でちょっとだけでも舐めさせてほしい。それだけでも違うはずなのに。