甘美な果実
もし相談をするのなら、紘にしかできない。他の人にはできない。でも、彼に話したからといって、必ず問題が解決するというわけでもなかった。気休めにしかならないだろう。前よりケーキに対する食欲が酷くなっていると明かしたところで、紘に何かできるはずもない。はずもないが、このまま黙りこくるよりかは、何でもいいから吐いてしまった方が多少は楽になるような気もした。
顔を上げ、紘を見ようとした、そのつもりが、何かに引き寄せられるように篠塚に視線を投げてしまった。偶然か、必然か、彼もこちらを見ていて、ばちり、目と目が合った。喉が、鳴る。何も知らない篠塚が、赤面する。怯えているわけではないことは、もう理解していた。篠塚が赤面して、すぐさま顔を逸らすタイミングで、俺も一緒に顔を逸らした。舌を強く噛んで、逸らした。逸らすことができた。
篠塚の姿を見ただけで、目が合っただけで、これだ。実際に接触があったら、目の色が変わってしまうかもしれない。それを恐れ、篠塚にはあまり近づかないようにしている。避けられている、と向こうは心のどこかで思っているかもしれないが、元々距離は近くない。周りから見れば、いつも通りのはずだ。
俺と篠塚の関係は、何も変わっていない。前進も後進もしていない、と思っているが、実際のところは後進気味だろう。俺が篠塚を避けているのがその証左。
俺に余裕がない以上、篠塚と接触はするべきではない。俺と篠塚をくっつけようとしている節のある紘には悪いが、俺にそのつもりはなかった。篠塚を見て、食べたい、と唇を舐めそうになるのだから、彼を守るためにも致し方ないことだ。
俺のこの欲求が、一般的なフォークと同じものなのかどうか、正直なところ、自信がない。食べたいのは性的な意味なのか。暴力的な意味なのか。ケーキを見て食糧だと思ったり、唾液が止まらなかったり、理性が飛びそうになったり、そのような思考や衝動が芽生える時点で、自分はマイノリティー側のフォークなのではないか。
顔を上げ、紘を見ようとした、そのつもりが、何かに引き寄せられるように篠塚に視線を投げてしまった。偶然か、必然か、彼もこちらを見ていて、ばちり、目と目が合った。喉が、鳴る。何も知らない篠塚が、赤面する。怯えているわけではないことは、もう理解していた。篠塚が赤面して、すぐさま顔を逸らすタイミングで、俺も一緒に顔を逸らした。舌を強く噛んで、逸らした。逸らすことができた。
篠塚の姿を見ただけで、目が合っただけで、これだ。実際に接触があったら、目の色が変わってしまうかもしれない。それを恐れ、篠塚にはあまり近づかないようにしている。避けられている、と向こうは心のどこかで思っているかもしれないが、元々距離は近くない。周りから見れば、いつも通りのはずだ。
俺と篠塚の関係は、何も変わっていない。前進も後進もしていない、と思っているが、実際のところは後進気味だろう。俺が篠塚を避けているのがその証左。
俺に余裕がない以上、篠塚と接触はするべきではない。俺と篠塚をくっつけようとしている節のある紘には悪いが、俺にそのつもりはなかった。篠塚を見て、食べたい、と唇を舐めそうになるのだから、彼を守るためにも致し方ないことだ。
俺のこの欲求が、一般的なフォークと同じものなのかどうか、正直なところ、自信がない。食べたいのは性的な意味なのか。暴力的な意味なのか。ケーキを見て食糧だと思ったり、唾液が止まらなかったり、理性が飛びそうになったり、そのような思考や衝動が芽生える時点で、自分はマイノリティー側のフォークなのではないか。