甘美な果実
 傷の具合を、今度は目で見て確認しようと鏡を見る。疲労を感じているような顔をした自分と目が合った。実際、疲れている。堪えてばかりの日々なのだ。襲わないように。食べないように。張った気を緩めないように。

 世のフォークたちは、どのようにして欲求を制御しているのだろう。定期的にケーキのパートナーとコミュケーションを取っているのだろうか。ならば、パートナーがケーキではない場合や、パートナーがいない場合は、どのようにして。

 都会の方には、そういうことを提供する専門の店がある。所謂風俗店のような。田舎のこの町にはないものだった。あっても利用はしないしできないが、それで発散している人もいるのだろう。

 でも、恐らく、多くの人は、病院に行って処方される、症状を抑えるための薬を日頃から飲んだり、スーパーなどに販売されるようになったフォーク用の食べ物を買ったりして、上手く生活しているに違いない。

 俺もそれらを利用しようとしたが、両親に話ができていない以上、バレた時のことを考えると尻込みしてしまった。日に日に症状が悪化することが分かっていたなら、ここまで引き延ばしてしまうこともなかっただろうに。今更だった。

 これほど苦悩しなくても済む何かしらの方法はある。無論、だからといって、犯罪に手を染めるわけにはいかないが、処方された薬を飲んだり、フォーク用の加工食品を食べたりすることは何も問題ではなかった。

 そろそろ本気になって考えなければならないだろう。両親に明かすことも。薬や加工食品に頼ることも。

 ケーキに対する欲求をいつまでも我慢できる気はしない。俺はそこまでできた人間ではない。舌を噛んで強制的にでも食欲を抑える必要があるくらいには危うい。
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