甘美な果実
3
「どうせなら、総合優勝したかったな」

「そうだな」

「適当かよ。声も冷めてるし。絶対そんなこと思ってないだろ」

 でも、瞬だしな。行事とか心底どうでもよさそうなタイプだしな。俺の前の席に座り、校庭側の窓枠の辺りに凭れかかりながら、瞬は暗いな、陰キャだな、もっと人生楽しめよな、と紘はいらない毒や余計なお世話を付け加えて俺を見た。目が合った。紘の目はいつ見ても生き生きとしていた。はは、相変わらず目が死んでる、おもしろ。俺は相変わらず目が死んでいるらしい。紘にはそれが面白いようだった。紘の壺はよく分からない。

 年間の学校行事の中でも、一位二位を争うほどに盛り上がる体育祭が終了したばかりだった。今年の総合優勝は三組。自分たちは二組であり、惜しくも総合優勝することはできなかった。負けた悔しさに目に涙を浮かべる人もいて、感情が滲み出てしまうほど本気になって取り組んできた人も少なからずいることが窺えた。熱心な人たちにとっては、自分のようなやる気のない人間は邪魔でしかなかっただろう。練習も本番も当たり障りなく熟すだけで、いまいち本気にはなれなかったのだった。運動が得意ではないのもあるのかもしれない。

 上手くやり過ごして誤魔化すだけの俺とは対照的に、総合優勝したかったな、と宣った紘は運動神経が抜群に良かった。足も速ければ球技もできる。体育祭では足の速い人は嫌でも目立つため、それなりにやる気のあった、楽しむ気のあった紘はよく目立っていた。リレーのアンカーに満場一致で抜擢されたくらいなのだから、周りも彼の身体能力の高さを認めている。

 紘にとって体育祭はモテイベントに違いない。かといって、告白されているところは見たことがないが。そんな話も聞いたことがないが。運動ができても、性格がちゃらんぽらんな能天気では、恋する相手としてはよろしくないのかもしれない。紘はクラスの中でも基本的にお笑い担当だ。なんとなくこれからもそうであってほしい。少し馬鹿なくらいが扱いやすい、いや、それくらいが一緒にいて楽だ。語弊を生む言い方は良くない、と俺は咄嗟に言葉を変え、思い直した。
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