甘美な果実
「瞬は目が死にがちで暗いのにさ、顔が良いせいでモテるのなんなの? イケメンだってことで借りられてただろ」

 イケメンと手を繋いでゴール。言いながら、揶揄するように自分の両手を握り合わせた紘は、お相手の方とは上手くいきそうですか、と記者の如く問うてきた。目も口も手も、完全にふざけている。馬鹿にしている。相手側が冷やかしにくいタイプだからといって、雑な対応でもいいと思っている俺を使って遊んでいるのだ。とばっちりだ。俺は今、とばっちりを食らっている。

 一体誰が、色恋沙汰に持ち込ませるような借り物を考案し、一体誰が、それを許可したのか。そのカードを引いた人の心境も考えてあげてほしいものだ。

 彼らの娯楽に自分は利用されたのだろうかと思ったら、とてもじゃないが良い気分にはなれなかった。断じて、俺を選んだ相手が憎いわけではないが。

 相手側もまた、戸惑ったに違いない。そのカードと相性の良くないタイプである自分たちは、ある種の被害者だ。傷口を抉るような真似はしてほしくなかった。

「渕野さん、聞こえてますか。どうなんですか、渕野さん。お相手の篠塚さんとは」

「埋められたい?」

「あ……、いえ、自分、まだ、死にたくないんで、さっきのはなしで」

 死んだ目だという両眼で見つめ、小首を傾げて埋められたいのかと聞けば、それは思っていたよりも効果覿面で。意気揚々としていた紘が小さく萎れていった。俯き、肩を縮こまらせている。少し良心が痛んだ。

 そこまで気勢を削ぐつもりはなかったため、流石に申し訳なくなってしまい、ああいう目立ち方はしたくなかったし、篠塚も多分そうだろ、とフォローも兼ねて暗に触れてほしくないことを告げれば、だよな、そうだよな、瞬も篠塚も、そういうタイプではないし、何より瞬は篠塚のこと、とそれ以上は言葉にせず、紘は静かに息を吐いて顔を上げた。
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