甘美な果実
 俺を好意的に見てくれる篠塚に対して、俺は人知れず罪悪感を覚えるようになっていた。その好意に気づいていながら素知らぬ顔をすることもそうだし、彼に対して、性欲を上回るほどの食欲を感じていることもそうで。触られた腕を舐めてしまったことや、競技で俺を選んだ篠塚と繋がざるを得なかった手を後から舐めてしまいそうになったこともまた、そうだった。

 篠塚を舐めたい。篠塚を食べたい。篠塚を貪りたい。芽生えるその衝動全てを我慢した。紘の手助けやフォローがあるとしても、それに甘えたくはなくて。我慢して、我慢して、我慢した。

 食欲の対象となっている篠塚と今後も関係を続けていくのなら、そのことを、その事実を、その欲求を、彼には話さなければならない時が来るだろう。彼がケーキであることも。俺との相性が、お世辞にも良いとは言えないことも。

 飴を、噛み砕いた。何個でも口に入れたくなるような、癖になるような甘い味が口腔に広がった。歯で砕いたそれを、ごくりと飲み込んだ。あっという間に口内が空になった。

「もう噛み砕いたのかよ」

「今回は結構舐めた方」

「……確かに」

 大体いつも、口に入れてすぐに獰猛な野生動物みたいにバリバリ噛み砕くもんな。飴って舐めるものなのに。からり、ころり。紘は口内の熱を使ってじっくりと飴を溶かしながら、俺を野生動物で例えた。獰猛と言うくらいのため、肉食系のようだ。どうでもいいが。

 俺と違ってなかなか噛まない紘を見ながら、俺はいつも思うのだった。小さくなるまで噛まずに舐めていられるのが不思議でならない、と。それが普通なのだろうか。飴は舐めるものではあるが、俺の場合、そうだと分かっていても噛まずにはいられないのだった。
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