甘美な果実
 随分と暴力的なイメージを持たれているようだが、俺も紘に対してそれなりの偏見を抱いてしまっているため、お互い様だと思い、それ以上はやんわりと流すことにした。下ネタ自体に抵抗はないが、無駄に広げるような話題でもないだろう。なんせ取るに足らない下ネタなのだから。

「どんな性癖持ってても俺は受け入れるからな」

「そんな心配されるような性癖は持ってない」

「何か性癖開拓されたら俺に教えてな」

「いちいち教える必要ないだろ」

「俺も何か発見したら教えるから」

「別に教えてくれなくていい」

「冷めてんな。もっと俺に興味を持ちやがれ」

「興味があったりなかったりどうでもよかったり」

「もうその返事が興味ないってことなんだわ」

「逆に聞くけど、紘は俺に興味がある?」

「これがな、めちゃくちゃあるんだよ」

「めちゃくちゃ」

「うん、セックスの話になるんだけどな」

「そろそろ帰るか」

「清々しいほどのスルー」

 ずっこけるように突っ込む紘を一瞥し、さっさとカバンを手にして席を立つと、はや、行動はや、と彼は俺に倣うように、深く腰掛けていた椅子から立ち上がった。置いて行くなよな。

 教室から廊下に出て、俺の隣、最早定位置となっている左側に並ぶ紘は、下ネタはもう飽きたのかよ、と俺の顔を覗き込むように見て尋ねてきた。俺は横目で彼を見て、すぐに前を向いた。

 健全な男子高校生にとって、下ネタは盛り上がるような話題ではあるだろうが、だからといって、作為的に盛り上げる必要はないのではないか。話を進めすぎたら際どいことまで聞かされ、言われてしまいそうだ。これ以上ヒートアップさせないようにするためにも、ここで話を終わらせておいた方が賢明だろう。
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