甘美な果実
 篠塚に対する食欲を飴を舐めることで誤魔化すも、舐める行為ではいまいち物足りなさを覚えてしまう俺は、堪らず丸いそれを歯と歯の間に置いて噛み砕いてしまった。やはり、飴は噛む方が落ち着く。

 バリバリと音を立てて噛み潰していれば、どこからか視線を感じて顔を上げた。飴が砕ける音は意外と耳につくのか、紘と篠塚が揃って俺を見ていた。一瞬自分の口の動きが止まったが、すぐに、何事もなかったように俺は飴を噛んで飲み込んだ。目的地の飲食店はもうすぐそこだ。

「さっきの聞こえたよな、篠塚。瞬は飴をあんな音立てて噛み砕くんだよ」

 セックスする時も絶対あちこち噛むタイプだからな、気をつけろよ篠塚。未だ終わっていなかった性癖の話と結びつける紘の顔面をそろそろ殴ってしまおうかと思ったが、それは思うだけに留めて無視をした。俺は無意味な暴力など振るわない。暴力を振るっているのを見たことがないと言った篠塚の前で、初めてを見せるわけにもいかない。

 俺をおちょくって調子に乗る紘はいつものことだ。いちいち相手にする必要はない。適当に流しておけばいい。そのうち飽きて黙るだろう。そう思い突っ込まないようにしていたが、意外な人物が話の輪を広げてきたことに、俺は内心驚愕してしまった。

「渕野くんは、する時、噛むの? 殴ったり蹴ったり首絞めたりするの?」

「篠塚?」

「あ、いや、ごめん、ちょっと気になって。渕野くん、人一倍謎めいてて情報があんまりないから、何か一つでも渕野くんのこと知りたいなって思って」

「それで性癖知りたがるのは変わってる」

「は、話の流れ的にそうなっただけだから。答えたくなかったら、全然、答えなくていいよ。うん、答えなくていいから」
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