甘美な果実
篠塚は恥じるように顔を赤くさせ、ぎこちない笑みを浮かべた。さっきのは忘れていいからね、と話を強制的に終わらせるように俺から顔を背け、視線の先にある飲食店へと歩みを進め始める。
下ネタであったとしても、篠塚なりに思い切って聞いてみたのだろう。その気持ちを無下にするのはどうかと思い、紘はともかく篠塚の問いには答えるべきかとその後ろ姿を見ながら息を吐き、彼の後を追って。篠塚、と無意識のうちに彼の腕を取り呼び止めていた。振り返った篠塚が目を見開く。ケーキの匂いが、ふわりと鼻腔を擽った。
「殴ったり蹴ったり、首を絞めたりはしない、けど、噛むことはするかもしれない」
きっと、そう。相手がケーキであれば。篠塚であれば。俺は噛むかもしれない。優しく言えばその表現だろうが、実際は肉を噛み千切ってしまうだろう。そんなような予感があった。それくらい、食べたくて仕方がなかった。わざわざ口にはしないが。篠塚の血肉を貪りたいなどとは。
誰かを抱く時の性癖を告げている間、篠塚は終始どきまぎしていた。質問に答えただけのつもりだが、何かおかしなことを言ってしまっただろうかと彼の様子を窺って。ふと気づいた。自分の手が篠塚の腕を掴んでいることに。
篠塚が動揺しているのはこれが原因かと思い、そっと手を離してみれば、彼は俺が触っていた感覚を確かめるようにその箇所に触れた。嫌だったのかと体育祭の時に篠塚が感じたことを今度は俺が感じてしまったが、俺の懸念は杞憂に過ぎなかったようだ。彼の表情は歪んでなどいない。
篠塚は自分の腕を大事そうに摩りながらはにかんで、嬉しいと宣った。同じ言葉を疑問符付きで鸚鵡返ししてしまう俺に、彼はうんと首を縦に振って続けた。
下ネタであったとしても、篠塚なりに思い切って聞いてみたのだろう。その気持ちを無下にするのはどうかと思い、紘はともかく篠塚の問いには答えるべきかとその後ろ姿を見ながら息を吐き、彼の後を追って。篠塚、と無意識のうちに彼の腕を取り呼び止めていた。振り返った篠塚が目を見開く。ケーキの匂いが、ふわりと鼻腔を擽った。
「殴ったり蹴ったり、首を絞めたりはしない、けど、噛むことはするかもしれない」
きっと、そう。相手がケーキであれば。篠塚であれば。俺は噛むかもしれない。優しく言えばその表現だろうが、実際は肉を噛み千切ってしまうだろう。そんなような予感があった。それくらい、食べたくて仕方がなかった。わざわざ口にはしないが。篠塚の血肉を貪りたいなどとは。
誰かを抱く時の性癖を告げている間、篠塚は終始どきまぎしていた。質問に答えただけのつもりだが、何かおかしなことを言ってしまっただろうかと彼の様子を窺って。ふと気づいた。自分の手が篠塚の腕を掴んでいることに。
篠塚が動揺しているのはこれが原因かと思い、そっと手を離してみれば、彼は俺が触っていた感覚を確かめるようにその箇所に触れた。嫌だったのかと体育祭の時に篠塚が感じたことを今度は俺が感じてしまったが、俺の懸念は杞憂に過ぎなかったようだ。彼の表情は歪んでなどいない。
篠塚は自分の腕を大事そうに摩りながらはにかんで、嬉しいと宣った。同じ言葉を疑問符付きで鸚鵡返ししてしまう俺に、彼はうんと首を縦に振って続けた。