極上ドクターは臆病な彼女に永遠の愛を誓う
女性陣の熱い視線を知ってか知らずか、篠宮先生はコットの中の元気くんを覗き込み、目を細める。

「元気くんは今日も元気そうだな」
「はい。お母様が退院時期について気にしておられましたよ」
「そうか。次の面会は?」
「明日の14時ごろに授乳指導でいらっしゃる予定です」

先生は明日のスケジュールを頭の中で組み立ているのか、数秒視線を宙に浮かせたあと、こちらに顔を向ける。

「じゃあその時間帯に来られるようにする。明日の担当にその旨引き継いでおいてくれ」
「承知しました」

篠宮先生は白衣を翻してコットの脇へ行き、デスクで電子カルテの確認を始める。
それを見ながら、上原さんは私の耳に顔を寄せた。

「眼福よねえ。これだけで夜勤頑張れちゃうわ」
「そうですね」

声を潜めつつも興奮を隠しきれない上原さんに、笑いながら小声で返す。
ルックスが整っているのはもちろんなのだけれど、先生は表情豊かなタイプじゃないわりに、ベビーを見る目はとてもやさしい。
そのギャップがまたたまらないのだ。
これは新生児科勤務のスタッフしか知らない特権だろう。
それに、先生は忙しい合間を縫って学会や研修に積極的に参加し、小さな命を救うため日々勉強を怠らない。
私は先生のそういうところをとても尊敬している。
最短ルートで新生児科専門医になった篠宮先生は、今年34歳。
まだ独身らしいけれど、結婚して子どもが生まれたらきっと子煩悩ないい父親になるだろう。
想像すると微笑ましくなる。


そんなことを考えていた翌日に訪れる事態を、この時の私は一ミリも想像していなかった。

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