極上ドクターは臆病な彼女に永遠の愛を誓う
父を責めたって仕方がない。
距離を理由に滅多に実家に帰らない上、電話をしていても父の変化に気づかなかった私のほうが悪いのだ。
父は癌宣告を受けて、きっとひとり苦しい思いを抱えていただろうに。
自己嫌悪で死にそうだ。

「……ごめん、お父さん」
「いや、今まで通り仕事もできるし、時々検査で通院するだけなんだから、正直なところ打ち明けるかどうかも迷ったんだが……」

言葉を切った父が、人の行きかう窓の外を見つめる。

「お前の人生だから、結婚するもしないもお前の自由だと思ってたんだ。俺に口を出す権利はないと。だが、癌だと言われて検査結果を待っている間、色々考えてしまってなあ」

なんとなく、次にくる言葉は予想がついてしまった。
父の視線の先には、2歳くらいの男の子を真ん中にして手を繋ぐ仲睦まじい家族の姿があったから。

「できれば元気なうちに孫が見られたらなあなんて、思ってな」

苦笑いを浮かべる父に、胸がちくんと痛む。
自分の子どもが結婚して、孫が生まれて、その孫の成長を見守っていく……
それは30近い娘を持つ親として、当然描く未来だろう。

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