白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

コインパーキングへと向かう途中。
夕映の質問に答えようとした、その時。
近づいてくる男の手元がキラッと光った気がして、思わず夕映の体を抱き寄せた。
すると、脇腹に鋭い痛みが走る。
何か、鋭利なもので脇腹を切られたようだ。
走り去る後ろ姿を微かに視界に捉えた。
―――あいつだ。

「……さん…?」

強請らずに初めて名前を呼んで貰えたのに。
クソッ、……ほぼ聞き逃したじゃねぇか。

「……ゅえっ……悪い、左腹部っ…」
「え?……ぇえっ?!」

彼女の肩に凭れかかった。
俺が押さえている左腹部を確認した彼女が、驚くと同時にすぐさま俺の手の上からぎゅっと圧迫する。

「今の人?!」

呼吸するだけでズキッと痛みが走る。
小さく頷いて目を閉じた。
彼女に支えられるようにその場に蹲り、ゆっくりと横たわる。
俺らの光景を目にした人の声が、微かに耳に届く。

「救急です。場所は新宿区役所前の交差点脇、区役所側ではなく新宿駅側の歩道で交差点から十メートルほど離れている位置、三十代男性、左腹部 鋭的外傷による出血状態、今現在JCS(意識レベル)Ⅰの10です」
「医療従事者の方ですか?」
「はい、都立江南病院の救急医の黒瀬です」
「了解です。黒瀬医師、新宿区役所前の交差点付近、新宿駅側の歩道部分、交差点から十メートルほどの位置にてにて三十代男性、左腹部外傷による出血、Ⅰの10ですね?」
「はい」
「五分程で救急車が到着します」
「お願いしますっ!それと、何者かによって切り付けられたので、警察への通報もお願い出来ますか?応急処置したいので、連絡をして貰えると助かりますっ」
「分かりました。こちらから警察に連絡します」
「お手数お掛けしますっ」

夕映は通話を切り、鞄の中からタオルハンカチを取り出し、患部を確認してから衣服の上から圧迫した。

「すみませんっ!どなたか救急車が到着したら、ここにいることを知らせて貰えませんか?!」

夕映は脈と意識確認を繰り返し取りながら、周辺にいる人々に呼び掛けた。

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