白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「夕映さんっ!!」
「……申し訳ありません」

救急搬送されている車内から、彼のスマホでお祖父様に連絡を入れたのだ。
救急搬送された病院へと駆けつけた院長夫妻とご両親。
夕映の姿を見つけ、すぐさま駆け寄って来た。

「一体どういう状況なの?」
「……通り魔なのか、顔見知りの犯行かは分かりませんが、左腹部外傷による大量出血で、Ⅰの10で搬送されました」
「それで今、処置中なのか?」
「……はい」

病院長でもある彼のお祖父様に状況をお伝えし、彼の所持品をお母様に手渡す。

「君も突然のことで驚いただろ。……少し椅子に腰かけて」
「……私は大丈夫です」

白いブラウスが真っ赤に染まるほど、彼の出血量は結構あった。
出血性ショックに陥っていたらどうしようと不安でしょうがない。

応急手当は、最善の処置を施したつもりだ。
何度も脳内で確認するが、漏れはなかったと思う。

救急専門医として日々仕事をしている夕映であっても、いざ目の前で知人が怪我をしたとなれば、気が動転してもおかしくない。
しかも、夕映には一抹の不安が過った。

彼を切りつけて逃走した人物が、何となく思い浮かぶ。
……ストーカーのあの男だ。

「すみません、救急搬送された神坂さんの件でお伺いしたいのですが」
「はい、私が一緒にいました」
「では、向こうで少しお話を聞かせて貰えますか?」
「……はい」

救急隊員と一緒に警察官二人が夕映の元に来た。

「すみません、向こうで説明して来ます」
「私も行くわ」
「母さん、俺も一緒に」

院長夫人と彼のお父様が一緒に話を聞くことになった。

落ち着いて……。
話すべきことはしっかりと伝えないと。

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