白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
硬膜下血腫は頭をぶつけてから、数週間から数か月後に症状が現れることもよくある。
今回の場合がそれだ。
硬膜下血腫とは、髄膜の内側にじわじわと出血した血液が溜まった状態のこと。
血腫部分を取り除くことはもちろんだが、それ以前に出血しやすい病変が隠れていないかなど、異常を見つけることも重要だ。
「血液検査の結果は異状なしですね」
「では、局麻で穿頭術(頭蓋骨に小さい穴を開け、溜まった血の塊を吸い出す手術)、エクトミー(摘出)でいいですか?」
「はい、それでいきましょう。直ぐに麻酔科へ連絡入れますね」
「では私から家族の方に手術の説明をして、同意書にサイン貰って来ます」
「お願いします」
赤石は検査データを手にして、ご家族の元へと向かった。
采人は現状報告も兼ね、脳外科部長の佐川医師に連絡を入れる。
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開頭するわけではないから、手術時間も一時間ほどで終わり、術後の経過を観察する。
「一時間毎にバイタル確認して」
「はい」
「赤石先生、お疲れ様でした」
「神坂先生こそ、お疲れ様でした」
采人は看護師に指示を出し、執刀医の赤石に挨拶した。
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CT画像では脳と血腫が同じ色に写るため、血腫が見えにくいことがよくある。
また一箇所ではなく左右両側に血腫がある場合、左右対称に見えて異常に気付きづらいこともあるのだ。
血腫が小さい場合、血腫部分を洗い流すこと(穿頭血腫除去術)で、大半の症状は改善する。
呂律が回らない、歩行が困難といった症状も、術後にリハビリすることで殆どの人が以前と変わらぬ日常生活が送れるようになるのだ。