白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

俺の言葉に絶句する夕映。
複数の専攻医を持つ医師は現実問題存在する。
けれど、十数年専攻医をした上で別の専門を勉強するといったのが通例。
俺みたいに若手でダブルボードする医師は皆無と言っていい。

自分で言うのもなんだが、生まれ持った天賦の才だと思う。

「ちなみに、もう一つは何なんですか?」
脳神経外科(NS)
「うっっっわぁ~~っ、難所を二つも!!」

目ん玉が飛び出るんじゃないかと言うくらい大きく目を見開いた夕映。
ポカーンと口まで大きく開けたまま。
そんな彼女の口の中に、煮込みうどんの具のかぼちゃを入れる。

「間抜け面だぞ」
「んっ…」

ま、可愛いけどな。

「今はダブルだけど、三年後にはトリプルになってるはず」
「えっ?!!」
「今年から、消化器外科(GS)も専攻してるから」
「いつ勉強してるんですか?」
「時間のある限り……?」
「怖っ……」

難病の患者も受け入れている病院だから、ありとあらゆる知識が必要になる。
一介の雇われ医師であれば、たぶんここまで憑りつかれたように勉強しないだろう。
けれど、俺は大病院の跡取り息子だ。
幼い頃から嫌というほど言い聞かせられ、今に至る。

夕映が救急医になりたいように、俺は外科のスペシャリストになりたい。
それが俺のなりたい医師像だ。

「一つ取るだけでも大変なのに…」
「好きでしてるからね」
「……凄いですよ、本当に」
「恵まれた環境ってのが一番だけどな」
「それでも」
「医師として、もっと高みに登りたいなら、俺の元に来い。今とは比べものにならないくらい充実した日々を送れるぞ」

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