白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
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「綺麗に縫われてますね」
「白星会医科大学は、腕のいい医師が多いからな」

術後一週間を経過しているのもあって、彼に『傷口を見せて下さい』とお願いした。
自分を庇って負った傷だからというのもあるが、傷一つない綺麗な肌だったのが脳にしっかりと記憶されているからだ。
あの綺麗な肌に、かなり大きな外傷を負ったのだから、気にならないはずがない。

リビングのソファに座る彼の腹部をしっかりと目に焼き付ける。
この傷から目を逸らしてはいけない。
私にはこの傷と向き合う罰があるのだから。

彼が救急搬送された医科大学は、神坂総合病院と並ぶ都内でもトップクラスの病院だ。
搬送先が神坂総合病院の方が良かったのかもしれないが、あの時、彼が『白星会医科大学へ』と指定したのだ。

恐らく、彼が救急搬送されたら大騒ぎになると踏んだのだろう。
転院する際は術後間もないというのに、深夜に極秘で行われたのだから。

「私にして欲しいことはありますか?」
「して欲しいこと?」
「髪を乾かすとか……それくらいなら幾らでもしますので」
「じゃあ、ここに泊まってっていいんだ?」
「……そういう意味じゃ」
「じゃあ、どういう意味?ここでシャワーはいいのに、寝るのは他所でって都合よすぎだろ」
「っ……」

昨日からシャワー許可が出た話を聞き、うっかり口が滑ってしまった。
深い意味で言ったわけじゃないのに、揚げ足を取られ、返答に困る。

「して欲しいこと、言ってのいいの?」
「ありますか?」
「ん」
「……何でしょう?」
「俺と結婚して」
「っっ…」
「じゃあ、俺の妻になって」
「………」
「それがダメなら、婚姻届にサインして」
「全部同じじゃないですか」
「一番して欲しいことだよ」

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