白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
医師免許を取得すると、その取得した大学系列で数年働くのが一般的。
だから、辞めるにしてもその意向を事前に知らせねばならない。
「後はもちろん一緒に住むのと、挙式は出来る限り夕映の希望に合わせるつもりだけど」
同居と挙式。
それと、職場。
やっぱり、思い当たるのはこれくらいだ。
「後は……」
「……後は?」
彼の言葉を待っていると、ゆっくりと顔を近づけた彼が、私の耳元で呟いた。
「明るい家族計画」
「っっ……」
「分かりやすっ…」
「……もうっ!」
脳内で考えてることなんて、彼にお見通しだ。
恥ずかしさを紛らわせるために、彼の肩を小突く。
「痛っ…」
「あ、ごめんなさいっ」
「うっそ~」
「もうっ!」
ぷくっと頬を膨らませ顔を背けると、ふわりと彼の腕に包まれた。
そして、優しく髪が撫でられ、心地いい鼓動が伝わってくる。
「もう俺のこと好きだって、認めろよ」
色気のある声音に、胸がトクンと脈打つ。
けれど、今時点では他人様の男だ。
「婚約を解消したら、考えます」
「言ったな?」
「……??」
「反故は無しだぞ?」
「……誠意をみせてくれたら、ちゃんと考えますよっ」
お腹の傷を労わりながら、彼の腕から逃げるように距離を取る。
ニヤリと口角を上げる彼。
『余裕だ』と言わんばかりの表情だ。
婚約って、そんなに簡単に解消できるものなの?
ドラマや映画でなんて、ドロドロもいいところなのに。
だけど、その手を掴んだら…。
背徳感を微塵も感じさせないほど、私だけを愛してくれるの?
婚約を破棄させてまで得る幸せって、存在するの?
罪悪感に苛まれそうだ。
それに、私にそれだけの価値があるとは思えないんだけど。