白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「変化しないものなんて無い」

夏季休診中の日曜日の十八時過ぎ。
勤務を終えた夕映は、スクラブから私服へと着替えるために更衣室にいる。

お盆休み中ということもあり、ER室には熱中症や交通事故による搬送依頼がひっきりなしに来る。
患者の処置などに追われ、食事を取る暇もなかった夕映のお腹の音が、グゥ~~ッと盛大に響き渡る。

しかも、低血糖でふらつき、足下がおぼつかない。
家に辿り着く前に行き倒れそうだ。

ロッカーからバッグを取り出し、夕映は更衣室を後にした。

「えっ…?」

スタッフ専用の通用口前あるソファに、采人が座っている。

何か急用でもあったのかな?
それとも、日勤だと伝えてあったから、わざわざ迎えにでも来てくれたのだろうか?

「どうしたんですか?」
「お疲れさま」
「あぁ……はい」

スッと立ち上がった彼はカジュアルな私服姿で、仕事の時とは違って前髪がさらりと下りている。
いつ見てもどんな格好でもカッコいいと思えてしまうのは、心が彼に傾いているからだろうか?

夏季休診中だというのが有難い。
普段ならスタッフも患者も多く行き交う院内。
彼が歩いているだけで悪目立ちしそうだ。

「今からどこかに行くんですか?」
「察しがいいね」

だって、いつも急じゃない。
嫌でも耐性がついたというか。
きっとそうなんだろうなぁと感覚的に分かるようになってきた。
こういう強引なところは、セレブ特有のものなのかな…?

状況的に気乗りしないが、彼の姿を見ただけで嬉しく思えるのは、もう自分の中で確実に気持ちが変化している証拠だ。

好きになった人に裏切られ、恋愛はこりごりだと思ったのに。
彼の惹きつける魅力に抗えそうにない。

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