白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

予告なしに店に連れて行かれることはよくあるけれど、こんな風に言うことなんて今まで一度もなかった。

ここは、秋葉原。
何となく想像がつく。

「入るぞ」
「あ、はい」

路地裏にあるビルの三階が目的地らしい。
長い溜息を吐いた彼は、ぎこちない笑顔を私に向けた。

「お帰りなさいませ、ご主人様☆」
「姪が先に来てるんですが」
「確認致します。少々お待ち下さいませ」

姪?
こういう店に来るような年の姪なんているの?

「お待たせ致しました。お席へご案内致します」

ぱっちりお目めが可愛らしいメイドさんが案内してくれる。
すらりとした細い脚にくるりと巻かれた長い髪。
白と黒を基調とした王道のメイド服。

初めて体験するメイドカフェだが、想像していたものよりほんの少しだけキャピキャピ感が和らいでいるような。
もっとこう……萌え萌えバズーカのような、ガン押しでグイグイ来るものと思っていたから、ちょっとだけ安心する。

「おっそいよッ!」
「悪い悪い」

ミルクティーのような髪色をした若い女の子が一人。
真っ赤なネイルカラーが一際目を惹く。
クール系の彼とは真逆にいるような女の子だ。

ん?
どこかで見たような……。

「お待たせ致しました、お嬢様。ゆめ特製オムライスでございます」
「ぅわぁ☆ウサたん、かわゆ~ぃ☆」

テーブルに運ばれて来たのは、ケチャップで可愛らしいウサギが描かれているだけの、ごくごく普通のオムライス。
メニューを確認すると、千五百円もする。
他にもよくある居酒屋メニューのような料理が書かれていて、既に食べきれないほどの料理がオーダーされているようだ。
隣りの席のテーブルも横付けされていて、所狭しと料理が並んでいる。

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