白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

トントンと彼の膝を叩く。
所在なさげな夕映はいたたまれなくなり、助けを求めたのだ。

羅菜(らな)

目の前でメイドと会話する女子。
羅菜という名前らしい。
姪だと言っていたが、どうみても二十歳くらいに見える。

「ゆめちゃん、ごめんね。ちょっとオジサンと話するから、また後で声掛けるね?」
「はい、お嬢様」

今風のメイクだけれど、他のメイドと異質な雰囲気がある。
ゆめさんは少し儚げな表情と物静かな雰囲気が売りのようだ。

「あの時の女医さんでしょ?」
「ん」

オレンジジュースをストローで飲みながら、彼女の視線が注がれる。

「オジサンにしては、いい人捕まえたんじゃない?」
「だろ?」

えっ、何この会話。
姪とおじの会話とは思えない。
それに、明らかに品定め的な値踏みをされている。

「初めまして、吉永(よしなが) 羅菜です」
「……初めまして、黒瀬 夕映です」

スッと差し出された手。
無意識にその手を掴んでしまった。

「パパには羅菜から話しておくね」
「後で挨拶しに行く」
「夕映さんでしたっけ?今日は好きなだけ食べていって」
「へ?」
「ねぇ、カオスメニューも頼んでいい?」
「好きにしろ」
「やった!ゆめちゃ~ん☆やきそバニランとハレンチからあげお願ぁ~い☆」
「承知致しました、お嬢様。オーダー入りまーす」

『カオスメニュー』って、何?
やきそバニラン?
ハレンチからあげ??
それ、食べ物なの……?

今一度メニューを確認。
あった!
カオスメニューなるものが…。
字面を見ただけで食欲が失せそうな料理が並ぶ。
メニューに気を取られていた、その時。

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