白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

「悪かったな、無理させて」
「……横になりたいです」

羅菜さんと分かれ、彼の車でマンションへと向かう。

羅菜さんのお目当ての『ゆめちゃん』は、実は男性だった。
というより、あのお店は男の娘(女装)のメイドカフェで、ゆめちゃんは人気ナンバー1のメイドスタッフらしい。
とにかく、ゆめちゃんに骨抜きにされてるらしくて、毎週末あそこで過ごしているという。

お店のシステムがポイント制で、カードが満タンになると昇格するという仕様。
羅菜さんはここぞとばかりにオーダーして、一気にカードランクを上げたかったのだとか。
で、フードファイター並に食べさせられたというわけだ。

「カオスメニュー、ヤバかったな」
「今、食べ物の話しないで。……吐きそう」
「ごめんごめん、フフッ…」

シートベルトをするのも勘弁して欲しいくらい、お腹がはち切れそうだ。

「ありがとうな」
「……」
「お陰で、夕映と結婚できる」
「……」

私、まだプロポーズを承諾してませんよ。
考えるとは言いましたけど、するとはまだ言ってない。

言い返したいのに言葉が出て来ない。
口を開いたら、あらぬものが出てきそうだ。

**

ベッドに横たわる。
本当はシャワーを浴びたいところだが、今は一歩も動けそうにない。
いっそのこと、楽になるために吐き戻したい気分だ。

「何でそんなに平気そうなんですか?」

クールな横顔に違和感を感じる。
イケメンって、満腹でも表情が崩れないの?

「モサプリドクエン(消化管運動亢進薬)を飲んでおいたから」
「……え」

何それ、自分だけ?
私にも飲ませてくれたらよかったのに!
こういうところが、本当に憎たらしい。
悪魔だ、悪魔。

「水、取って来るな」

もう勝手にして。
相槌打つ気力もない。

冷蔵庫から冷えたミネラルウォーターを持って来た彼。
私が横たわるベッドに腰掛けた。

「明日は公休日だから、遠慮なく俺に甘えろ」

それが目的ですか。
身動きの取れない私をいいことに、ブラウスのボタンを外しにかかり始めた。

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