白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「早まるなっ!!」

都内でも一等地と言われる場所に聳え立つ『神坂総合病院』。
政財界の大物や芸能人も通うというこの病院は、指定難病の治療も多く行っているということもあり、全国から多くの患者が訪れる。

その病院の程近い場所にある、高級タワーマンション。
セキュリティはもちろんのこと、窓から見える景色は溜息が漏れ出すほどの絶景だ。

ポコポコと電気ケトルの沸騰音が響く中。
夕映は一人住まいにしては広すぎる部屋を見渡す。
最新の家電とセンスのいい家具が全て備え付けられた部屋。

数日前に神坂医師に紹介して貰ったこの部屋は元々、神坂総合病院の医師向けの物件だったらしく、幾つかある物件の一つを貸して貰うことになった。

とはいえ、都立病院の勤務医の月給で借りられる額ではない。
そこは、彼の優しさ価格に設定して貰った。

申し訳なさと惨めさが入り交ざって、高層階の窓から飛び降りてしまおうかと何度も脳裏を過るほど。

「どうやってこのご恩を返したらいいのやら…」

ピリリリリッ…。
職場からの呼び出しだ。

『多重玉突き事故により、搬送者五名。大至急、連絡下さい』とある。
夕映はすぐさま上着を羽織り、バッグを掴んで部屋を飛び出した。

「もしもし、黒瀬です。もう向かってます。十五分ほどで着くと思います。詳しい情報を下さい」

ブルートゥースで通話しながら、エレベーターで降りる。
神坂医師から借りているマンションから職場までは十分強の距離。
地下鉄で一駅という、ありえないほどの好条件だった。

**

「お疲れさん」
「今日もクタクタです…」

尊敬している戸部医師が淹れてくれた珈琲が、目の前に差し出された。
業務報告書を入力している手を止め、カップを受け取る。

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