白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

夜勤明けの夕映に、デートに誘われた。
二夜連続の夜勤だと聞いていたから、疲れているであろうに。

もしかして、気づかれたか?

彼女には『仕事詰めだったから』なんて言ったが、実際は自宅謹慎中の身だ。

一カ月ほど前に脳内出血(ICH)で搬送されて来た五十代の男性の手術を執刀した。
手術は成功したし、術後の状態もよく、リハビリも順調にいっていたのに。
一昨日、医療過誤による告訴状が届いた。

病院側の判断で、一週間の自宅謹慎処分が下った。

何度もカルテや検査記録を確認したが、どこにも落ち度はなくて。
退院後に再出血したとしか思えない。

退院後の外来のカルテにも、経過良好の診断がされているし。
どう考えても、俺が原因とは思えない。

けれど、可能性がゼロではないから。
患者さんが今置かれている状況を考えても、しっかりと受け止めねばならないと自分自身に言い聞かせているところ。

手術に絶対はない。
最善を尽くしたとしても、患者の望む術後の姿と違うとしたら…。
医師として、患者の気持ちを受け止める責務がある。



「海が見たいです」
「海?」
「欲しい物もないし、海なし県生まれなので『海』は特別なんです」
「神奈川?それとも千葉方面?」
「どちらでも」
「じゃあ、千葉にするか」

Tシャツにショートデニムという恰好の夕映。
すらりとした生足に見惚れてしまう。

九月に入っているとはいえ、まだ外気温は真夏日だから。
入ろうと思えば海にだって入れそうだ。

「これは、お触りOKってこと?」
「ッ?!……ワンタッチ千円頂きます」
「思ったより安いんだな」
「っ……」
「もっと吹っ掛けりゃいいのに」

< 137 / 172 >

この作品をシェア

pagetop