白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「砂の色が綺麗ですね」
「透明度も高くて、渚百選にも選ばれてる場所だよ」

九月に入って学生の子たちがいない分、平日の昼間は穴場のようだ。
サーファーの人達と地元の人たちがいるだけ。
大型駐車場に数台の車しかない。

「運転疲れしてないですか?何か冷たいものでも買って来ます」
「いいよ、まだ。来る途中で飲んだだろ」

地図上では隣県だけれど、結構な距離がある。
一応免許は持っているけれど、車を持ってないから帰省した時くらいしか運転しない。
都内に住んでたら車が無くても困らないし、実際維持費だけかかって、無用の長物になるのが目に見えている。

車って、性格が出るとよく聞くけれど。
本当にその通りだと思う。

彼の運転は落ち着いていて、乗ってて安心感がある。
元彼や母親の運転と比較してはダメなんだろうけど、高級車というのを抜きにしても、凄く乗り心地がいい。

海風に煽られながら、彼と少し砂浜を歩く。
気温三十一度のはずなのに、意外にも涼しく感じる。

キラキラと揺らめく海面を眺めている彼の横顔を盗み見する。
イケメン御曹司は海も似合うらしい。
日焼けした肌は想像できないが、華麗に波に乗る姿がありありと想像がつく。

「何か悩み事ですか?」
「……え?」
「難しい手術を控えてるとか?」
「……」
「専門の知識なんてないですけど、患者を思う気持ちは分かり合えると思うので」
「……ありがとう」

フッと表情を和らげた彼。
だけど、その前に私は見てしまった。
何かに悩んでるような、苦し気な顔を。

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