白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「先生、結婚っていいものですか?」
「なんだ、いきなり。黒瀬、結婚に興味が湧いたか?」
「そりゃあ私だって、相手がいて条件が揃えば結婚だってしたいですよ」
クラシックブルー色のスクラブ姿の夕映は、溜息を吐きながらカップに口をつける。
「お前、彼氏いなかったっけ?……相手に結婚する気がないとかか?」
彼氏がいることは話したことがあるが、踏み込んだ話はしたことがなかった。
医局に二人しかしないことを確認した夕映は、先日の出来事を洗いざらい話した。
すると、普段お茶らけている戸部先生が、さすがにこの時ばかりは空気を読んでくれた。
「よく頑張ったな」
ポンポンと優しく頭が撫でられる。
取り乱してもおかしくない状況下で、ベストな処置を施したことに対しての労い。
そして、仕事を優先して来た私への彼の優しさだった。
「じゃあ、今どこに住んでるんだ?」
「神坂病院が所有してる超高級タワーマンションです」
「は?」
「あの日、一緒にCPRしてくれた医師が神坂総合病院の神坂医師だったんですよ」
「なんだ、そのマンガみたいな展開」
「で、この間のトリアージ講習の会場で再会したんですけど。ちょうどその時に不動産屋さんから退去命令の電話貰って撃沈してる私に、声をかけて下さって。その時に貸して貰うことになったんですよ」
「御曹司って、ホントに何でも出来るんだな」
「リアル王子様ですよね」
戸部医師は一回り年上で妻帯者。
八歳と四歳の男の子がいるパパだ。
「神坂医師に御礼しようと思うんですけど、何したらいいと思いますか?」
「うーん、無難に食事?何でも持っていそうだし、物より消え物の方が無難だろ」
「ですよね」