白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

彼女の思いがけない言葉に、一つだけ埋まらなかったパズルがピタッと完成した気がした。

「医師ではないんですけど、親友の子が先輩よりも先に昇進したら目の敵にされてたみたいで。取引先の人を使って、『枕営業で昇進できた』と嘘の噂を流されて」
「それで、その親友の子はどうなったの?」
「彼女は、『自分の勤務評価表を公にして下さい』と社長に直談判したらしいです」
「凄い勇気のある子だね」

どんな会社に勤務しているのかは分からないが、社長に直訴するくらい自分の仕事に誇りを持っているのだろう。

俺は自分の落ち度がないか振り返るだけで、現実に向き合おうとしなかった。
例え自分に非が無くても、いつかは事態が収拾すると思っていたのも事実。

自分の手で解決しようだとか、食い下がってでも潔白を訴えるとか考えにも至らなかった。
ダメだな、俺は。
医師になって十年足らずで驕るようになるとは。
医師になると決めた時にあんなにも強く心に誓ったのに。

『患者の前では御曹司ではなく、一人の人間である』ということを。


夕映に言われて思い当たる所がある。
俺よりも一回り以上も年上の先輩医師が、俺が二つ目の専攻医を取得したのをよく思ってないことを。
親の七光り、そう言いたげな表情を何度も目にして来た。

何の苦労もなく、技術が身に付くわけじゃない。
俺だってレジデントの期間、みっちり勉強と手術、それと診察を重ねてきた。

一人でも多くの患者を診るために、医局にかかって来た内線電話を瞬殺で取るまでに成長したのだから。

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