白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
予想通り、午後二時過ぎ頃から搬送依頼が相次ぎ、さすがに定時(早番は十五時)で上がるのは気が引けて。
夕映はTAによる鈍的外傷患者の診察にあたる。
「ここ押すと痛みますか?」
「うっ……はい」
「ここはどうですか?」
「……痛いです」
「右腕を少し上げて貰ってもいいですか?そのままゆっくりと深呼吸して…」
「…はい」
「呼吸の際に鋭い痛みが走りますか?」
「……はい」
「恐らく肋骨が折れていると思われます。詳しくはレントゲンとCTを撮ってみてになりますが、臓器に損傷があるようでしたら、損傷具合を確認して、その後の処置を決めたいと思います。まずは検査室へ。日下部さん(看護師)、検査室へ彼をお願い」
「はい」
交通事故による右上腹部の鈍的外傷、三十代、男性。
出血は無いものの、明らかに事故による挫傷が確認できる。
夕映は電子カルテをその場で入力する。
「黒瀬先生、転倒による頭部裂傷の患者の縫合お願いできますか?」
「はい、分かりました」
夜勤担当の箕輪医師から処置依頼を受ける。
五歳年上の箕輪医師は、今年の春に系列の病院から移動して来た医師だ。
小児外科が専門医らしいのだが、今年の春から救急医の専門医を研修中である。
医師としては先輩だが、ERでは夕映の方が先輩である。
*
「黒瀬、まだいたのか?」
「今何時ですか?」
「もう少しで十八時になるぞ」
「へっ?!」
「彼氏が待ち侘びてるだろ」
「……」
「ここはもういいから、早く上がれ」
「……すみません、ではお先に失礼します」
「お~、お疲れさん」
「黒瀬先生、遅くまでありがとうございました」
「いえ、今日みたいな日はイレギュラーですから。箕輪先生、お先に失礼します」
「外積もってるから気を付けてね。お疲れ様でした」