白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
更衣室のロッカーに入れっぱなしのスマホを開くと、采人さんからメールと着信が来ていた。
『終わったらメールして。迎えに行くから』
何時のレストラン予約なのか知らされていないが、この服で大丈夫だろうか?
早く終わればシャワーを浴びに帰るつもりでいたが、万が一急患で遅くなることがあるといけないと思って、一応それらしい服装では来たが…。
アンサンブルのニットにロングスカート。
カラータイツにショートブーツ。
フォーマルな服ではないが、レストランで食事をするくらいならこれで十分だよね?
『今終わりました。レストラン、まだ間に合いますか?もしダメなようなら、キャンセル代は私が払いますので』
遅くなると連絡も入れずにドタキャンみたいなことするなんて、あきれられても仕方ない。
でも、今年に始まったことじゃない。
救急医を目指した時点で、こういうイベントものには縁がないと覚悟はしていたから。
バッグの中から指輪を取り出し、それを嵌める。
メイクしたって殆ど変わらないだろうが、せめてテカリくらいは押さえておかねば。
夕映はバッグと小さな紙手提げを手にして、更衣室を後にした。
『結構積もってるから、通用口に横付けする。慌てないで出ておいで』
優しい。
スノーブーツじゃないから、転倒しないか心配してるようだ。
スタッフ専用の通用口から外に出る。
牡丹雪が降っていて、想像以上に積もっていた。
これでは、スリップ事故が多発してもおかしくない。
夕映は五センチほど積もっている新雪の上をゆっくりと歩き、自分の足跡をつけた。
“初雪に足跡をつけて願い事をすると叶う”
群馬の山間部で育った夕映は、毎年初雪が降ると庭に飛び出し、母と願い事をした。
これまでは『救急医になれますように』とお願いしたが、今年の願い事は……。