白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

「お店……ではないですよね?」
「ごめん、黙ってて。この時期のERは忙しいの分かってたから、時間に縛られない場所がいいかと思って」

着いた先は、低層階の高級マンションのようだ。
地下駐車場からエレベーターで上がると、同じフロアにドアは二つしかない。
外観から見た感じだと地上二階建てのような気がしたから、もしかして四戸しかない物件なのかな。

「ここに来るの、初めてだよね」
「……ここは?」
「俺の家」
「……ここが本宅ってことですか?」
「まぁ、そうなるかな」

重厚感のあるドアが開くと、玄関に何足もの靴が並んでいる。

「どなたかがいらっしゃるんですか?」
「入れば分かるよ」
「え…」

男性物の革靴だけなら、たぶん彼のものだと思っただろう。
だけど、高いヒールのショートブーツとシンプルなパンプスが揃えられている。

彼に気づかれないように深呼吸して、彼の後を追う。

「えっ……何でいるの?」
「おかえり~、お仕事お疲れ様」
「雪で急患が多かったよね」
「夕映」
「そんなところで突っ立ってないで」

時間が不確定だからレストランは諦めて、彼の家で食事をするのだと思っていたら。
なんと、自分の両親と彼の両親、それと彼の祖父母である神坂総合病院の院長夫妻がいるではないか。

聞いてない。
来るなら来るで、何でメールの一つも入れてくれなかったの?
それに、ご両親や院長夫妻に会うと分かってたら、もっとちゃんとした服装にしたのに。

「夕映?」
「狡いですよ、自分だけ」
「ごめんごめん」

私の両親が来ると分かっていて、彼はあえてスーツにしたんだ。
信じられない!
それならそうと、一言くらいあってもいいのに。

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