白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
翌々日に、『無事に入居しました。御礼は後日、改めて』と簡素なメールが届いた。
その言葉に期待し、連絡が来るのを待っているが、一向に来る気配がない。
いや、仕事が多忙で連絡する暇がないだけか。
「神坂先生、お先に失礼します」
「お疲れさまでした」
同僚の医師が医局を後にする。
十九時を少し回ったところ。
「何か、買って帰るか…」
机上を片付け、スマホをポケットにしまった、その時。
ブブブッとポケットの中のスマホが震えた。
『こんばんは。ご連絡が遅くなり申し訳ありません。お食事でも…と思うのですが、ご都合の良い日はありますか?先生のご都合に合わせます』
待ちに待った連絡だった。
定型文のようなメールに、思わず笑みが零れた。
飾り気がないというより、取り繕う気が全くないといった感じ。
部屋を借りている手前、仕方なく御礼をしたい的な。
それでも構わない。
彼女に会うきっかけが作れるなら。
『今、ER室は人手が足りてるの?』
いつがいいだとか。
今日はもう上がったの?だなんて、ありきたりな返信はしない。
ER型救急という特殊な職場を熟知しているから、かけられる言葉。
言葉のキャッチボールができるように、あえて変化球で質問を返した。
『夜勤明けに急患が搬送されて来て、その対応に当たって、夕方に帰宅しました。なので、もう家にいます』
ほ~ら、来た。
『では、しっかり休養をとって』
『お食事の時に、ご相談したいことがありまして』
『相談?どんな内容?』
『元彼から、預けておいたお金を取り戻したいんですが、やっぱり無理でしょうか?』
椅子から腰を上げて、固まってしまった。