白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

弄ぶみたいな口調だが、髪を洗う手はとても優しく丁寧で、地肌に触れる指先が心地いい。
女性の扱いに慣れているからだろうが、過去と今を天秤にかけたとしても、余りあるほどの愛情を感じる。


湯船に浸かる私の手をそっと掬い上げ、手の甲にキスが落とされる。

こんなキザなことを、ドラマや漫画の世界でしか知らない。

「夕映」
「……はい」
「幸せな年にしような」
「…はい」
「愛してるよ」
「っ…」

肩先に熱いキスが落とされ、ゆっくりと首筋へと這い上がる。

湯温のせいか、彼の熱いキスのせいか。
体の芯から甘く痺れるような刺激がせり上がってくる。


男性と一緒に入浴だなんて、絶対無理だと思ってたのに。
彼の強引さと注がれる情愛の深さに、こういう時間があってもいいかな?だなんて思えてしまう。

初めて会ったあの日から。
彼の毒牙にかかっていたのかもしれない。

時間差で襲ってくる甘い痺れ。
じわりじわりと浸潤するように、彼なしではいられなくなっているようで。

彼から注がれる深い愛情が、身も心も隙間なく埋め尽くす。
この満たされる感覚が『幸せ』なのかもしれない。

そう考えると、元彼との五年間は、一度も幸せを感じたことがなかった。
いつも不確かで不安になりながらも“こういうものなんだ”と自分を説き伏せていた。

誰かを愛し、愛される幸せ。
采人さんが私に教えてくれた。

―――
――

「今日の夕映はいつになく大人しいな。体が辛いか?」

ピロートークは、必ず抱き締めながら優しい声音で囁く。
このちょっとした時間が擽ったくて、幸せに浸らせてくれる。

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