白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

熱く見つめられるその瞳に、私が映る。
吸い込まれるように惹きつけられ、視線が逸らせない。


脇腹に残る傷痕にそっと指先を滑らせる。

「これを見る度に、心が咎めるか?」
「……そうですね」
「一生そうやって俺に囚われてろ」
「っっ」
「恨まれようが、憎まれようが、手放すつもりはないから」

私の手を掴み、不敵に微笑みながら指先に触れるだけのキスをした。

拒むことも抗うことさえも無駄だと思わせられるほどの執愛。

この人が、私の旦那様。
時々意地悪なことをするけれど、それらも全て彼の愛し方だと漸く理解した。
少し度が過ぎるとは思うけれど。

「我が儘、言ってもいいですか?」
「……幾らでも」
「私に、采人さんの初めてを下さい」
「……え?」
「キスだってその先だって、私が初めてではないですよね?」
「……ん」
「妻の特権みたいな、采人さんの初体験が欲しいです」
「面白いこと考えるな」
「妻である自信が欲しいというか、とにかく特別感を味わいたいんです」
「そんなの既に幾つもあげてるよ」
「へ?」
「俺に初めて嫉妬させた女だし、土下座してでも機嫌を取りたいと思わせた女だし」
「ぇえっ?」
「さっきも俺の初めてをくれてやったぞ」
「……??」

えっ、何だろう?
さっきって、いつのことだろう?
女性と初めてお風呂に入ったとか??
それとも、女性と初めて喧嘩したとか??

全く分からず小首を傾げると、彼が耳元にそっと囁いた。

「生まれて初めて俺に『愛してる』と言わせたんだからな。妻だけが許される特権だよ」
「っっっ」
「欲しけりゃ幾らだってくれてやる。……俺の初めてなんて」

~FIN~

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