白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
純白のドレスを身に纏う新婦。
その新婦のために、救命乞う彼はタキシード姿。
紛れもなく、この二人はそういう二人なのだろう。
完全に思考が停止する。
いや、何も考えたくないと思考を放棄したと言った方が正しいか。
五年も交際しているよね?
先週も会ったし、愛し合ったよね?……私たち。
確かに救急医という職業柄、休みも不規則だし、まともにデートすら出来てなかったけれど。
付き合っていると思っていたのは私だけだったの?
「早くしないと、手遅れになるぞ」
超特大のハンマーで殴られたような状態の私に、トドメの一撃とばかりに冷たい男性の声が降って来た。
「私の声が聞こえますか?」
新婦の肩を叩きながら、意識確認を始める男性。
素早く頸部の脈を取りながら胸部と腹部の動きを目で追い始めた。
「神坂総合病院の医師だ。CPR(心肺蘇生法)を要する」
そうだ、私は救急医だ。
どんな理由があるにせよ、患者が最優先。
「都立江南病院の救急医です。そこのスタッフさん、大至急AEDを!誰か、救急車の要請をお願いしますっ!それから、どなたかバスタオルかひざ掛けのような物と、衝立になるような物をフロントに頼んで来て貰えますか?」
「はいっ!」
「自分、救急車呼びます!」
放心状態の案内係のホテルスタッフと近場にいる人に指示を出す。
すると、すぐさま周辺にいたスタッフがインカムで連絡を入れてくれた。
「夕映っ、一美を頼むっ」
「私に話しかけるんじゃなくて、彼女に話しかけてッ!」
懇願されても胸中は複雑だ。
新婦は意識がなく、心停止状態。
着ているジャケットを脱ぎ、すぐ傍にいる連れの女性に『持ってて』とそれを手渡す男性医師。
ネクタイを緩め、素早くYシャツの袖ボタンを外した。
「私携帯用キューマスク持ってますっ」