白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「いい部屋、紹介しましょうか?」
「あれ?……黒瀬先生?」
搬送先が勤務する都立江南病院になったこともあり、将司に懇願されて搬送に付き合った夕映。
職場である都立江南病院に到着したと同時に、同僚スタッフの視線が突き刺さる。
綺麗にセットしてあった髪はほつれかかり、汗でメイクも崩れ気味。
せっかくのお呼ばれ仕様のブラックワンピースが、今はどう見ても喪服のようだ。
心的疲労と肉体的疲労が滲み出す夕映は、頬を引き攣らせながらストレッチャーを押す。
「妊娠六カ月の妊婦です――…」
救急隊員二人と共に、これまでの状況を報告しながら、必要な医療機器を次々と装着する。
バイタルや心電図の情報が引き継がれ、事前に報告していたこともあり、産科の本島医師が待機してくれていた。
「赤ちゃんの具合はどうですか?」
「心拍が弱ってますけど、ちゃんと動いてます」
「よかったぁ」
思わず安堵の溜息が漏れ出した。
「黒瀬先生、そう言えば今日、ご友人の結婚式だって仰ってましたよね。えっ、じゃあ、この新婦さんが先生のご友人?!私、戸部先生呼んで来ます!」
「え?……あ、違うから、って聞いてないよ」
夕映の親友だと思い込んだ日勤のナーススタッフ(町田さん)がER室内奥へと慌ただしく駆けてゆき、私の指導医でもある戸部医師を呼びに行った。
町田さんの声は通るから、一瞬でER内に情報が伝達された。
『妊婦である新婦は、黒瀬の友人』だと。
「黒瀬先生、そばに付いててあげて下さい」
「……いや、だから…」
産科の本島先生まで…。
見ず知らずの女性なんだってば。
しかも、恋人の奥さん……って。
自分が浮気相手なんだと改めて突き付けられた。
「もう、今すぐ消えたい…」