白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

彼が何を言いたいのか、分からない。
地位や見た目だけでなく、リアルな日常も完璧にしたいということなのだろうか。

「今年三十で、そろそろ結婚したいと思わない?」
「……そうですね。年齢的なことを考えたら、したいなぁとは思いますけど、神坂さんもご存じな通り、あんなろくでもない男に五年も騙されてたから、正直男性を見る目もないでしょうし、今は恋愛する勇気もないんですよね」
「でも、将来的には結婚もしたい……でしょ?」
「……まぁ、ご縁があれば、の話ですけど」

初夏の夜風が心地よく肌を撫でる。
いつ呼び出しがかかってもいいように、できるだけ飲酒は避けている夕映は、神坂院長夫妻のお酒の誘いをお断りした。
だから、酔いで夜風が心地いいと感じているわけではない。

こんな風にのんびりと、夜の散歩を楽しむのが久しぶりすぎて。
都会の喧騒からここだけ切り離されてる気がした。

「君が望めば、俺の婚約はいつでも解消できるから」
「……それ、どういう意味ですか?」

突然の彼の言葉に、脳内に軽い衝撃が走る。

恋愛に事関しては、経験値が豊富とは言えない。
好きだ、惚れたの世界は、もはや二次元の出来事なのだと思い知らされたあの日から、まだひと月ほどしか経ってない。

元彼との衝撃的な別れと、突然の両親訪問も相まって、夕映のプライベートは彼に筒抜け状態。
住む家も提供して貰った上、両親の手前、仮初の恋人役を演じて貰うことをお願いした仲ではあるが、何をどうしたら『結婚』へと大ジャンプを遂げるのだろうか。

伝達したい情報を電気信号に変換する操作に異常が起きているのか。
夕映の脳内は、あちこちでエラーが頻発していた。

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