白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
月曜日の昼過ぎ。
久しぶりの休日で、買い物をしようとマンションを出た、その時。
『今日はお休みなんですか?』
突然、男性が声をかけて来た。
声の主を視界に捉え、背筋が凍り付いた。
――彼だ。
驚きを通り越して、恐怖でしかない。
平日の昼過ぎに行き会うこと自体、ありえない。
職場からマンションまでつけて来なければ、住んでいる場所が特定されることなんて無いのだから。
体のいい挨拶を交わし、タクシーに飛び乗った。
尾行されているかもしれないと思い、何度も後ろを確認する。
その後、タクシーを降りた夕映は、どこを歩いているのかすら覚えていないほど、精神的に追い詰められていた。
立ち寄ったカフェでスマホのアドレス帳を開き、今夜泊めてくれそうな人を探す。
『神坂医師』という文字を見つけ、無意識に発信ボタンをタップしていた。
彼なら、話を聞いてくれそうな気がして。
同じ『医師』という立場もあるし、情けない姿を何度となく見せていることもあって、絶対の安心感があるからだ。
*
女医という一種のステータスのようなものを思い描いているのか。
たまに医療行為を恋愛感情だと勘違いする患者がいる。
確かに技術的なものだけでなく、精神的な面においても寄り添い救うのが医師の役割だが。
私は精神科の医師じゃない。
救急を専門とした医師だ。
だから、私が施した医療行為が、恋愛感情の類だと思われても困るだけ。
コンプライアンス研修で嫌というほど議題に上がる問題。
現実的に存在しているとは認識していたが、まさか自分の身に降りかかるとは思ってもいなかった。