白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

実家は電車で二時間以上かかるし、前のマンションは既に退去済み。
仲のいい友人は先日結婚したばかりで、他の友人には元彼と別れたことさえ話してないという。

たまに勘違いのような、思い込みの患者はいる。

こちらは仕事として誇りをもって、必死で命を救おうとしているだけなのだが。
患者からしてみれば、命を救ってくれた恩人だ。
しかもその医師が、自分の好みであれば、恋愛感情を抱くこともあるだろう。

白衣の天使だなんて看護師のことを崇める男性は多いが、同じくらい女性医師に惚れ込む男性患者も多い。
もちろん、若い男性医師に対して、淡い恋心を抱く女性患者もいるが、大抵痛い目を見るのは女性の方だ。
弄ばれ捨てられるなんてこと、どこの業界でも少なからずある。

だが、今回の件はそれだけでは済まなそうだ。

破局による精神的ダメージで自殺未遂を起こし、それがきっかけで夕映をその元婚約者とダブらせているのかもしれない。
彼女なら、自分のために一心不乱になってくれると勘違いしているのだろう。


運ばれて来た料理を前に溜息を吐く彼女。
さて、どうしたものか。

防犯カメラの件はもちろんのこと、男の情報を調べることは容易い。
法的処置を取るにしても、何らかの証拠は必要だし。
何より、何故俺に相談して来たのか?という事だ。

当然あのマンションの家主だから、防犯カメラのことを相談するために連絡して来たのだろう。
だが、それだけだろうか?
『男』として、俺を必要としているのでは?

家柄や職業などを担保にして俺を信用しているとしても、今回の件は、一つ間違えたらかなり危険を伴う。
何のメリットもなく、手を差し伸べるのは割が悪い。

「俺の女でもないのに、俺にどうしろと?」

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