白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


数時間必死に考えたけれど、自分に出来ることなんて限られている。
誠意をもって患者に対応する以外に思い浮かばない。
けれど、それで駄目だった場合、どう対処したらいいのだろうか。


神坂医師と夕食をとりながら、ここ数日の出来事を事細かく説明した。
もう恥も外聞もない。
彼には丸裸でさえ、晒した仲だ。

「俺の女でもないのに、俺にどうしろと?」

思いもしない言葉が返って来た。
よくよく考えれば、彼の言う通りだ。

助ける義理もなければ、相談に乗って貰うことさえお門違い。

「ごめんなさい。つい甘えてしまって…」

恥ずかしすぎる。
これまで彼が断わらないことをいいことに、図に乗ってしまった。
本当に情けない姿ばかり晒してるな、私。

食欲は無いけれど、『個室』をせがんでまで連れて来て貰ったお店だ。
目の前に並ぶ、色鮮やかなミニ懐石に箸をつける。

「この鯛、甘くて美味しいですね」

今は誰かに吐露できただけで十分。
自分のことは自分で何とかしないと。

「そう言えば、実家に送って頂いた日本酒、父が物凄く喜んでまして、何か御礼がしたいと言ってました。神坂さんはどういった物がお好きなんですか?」
「あれは、頂いたうどんの御礼だから」

気持ちを切り替えて話題を変えようとしてみたけれど、結局は彼の優しさと気遣いを改めて思い知る。

視線が無意識に手元の料理に降下した、次の瞬間。
目の前の彼が、フッと鼻を鳴らした。

「無償では、手は貸せないな。さすがにリスクが大きすぎるだろ」
「……そう…ですよね」

有償なら助けてくれるってこと?
だったら、何をしたらいいのだろう?

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