白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
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「あのっ、これは一体、どういう……?」
「見ての通りだけど」
「………」

駅のホームで彼からの電話を受け、ちょうど彼も仕事が終わったところだからと、神坂医師と待ち合わせることになった。
そして彼と合流したまではいいのだが、『夕食をとる前に一軒だけ寄りたい店がある』と言われ、彼に連れて来られた店が…。

表参道のとある店舗。
店内の一角にあるサロンブースに案内され、ホワイトオーク調のテーブルに着く。
閉店間際なのか、店舗内には他に客がおらず。
流れるような心地よいBGMが店内に響く。

「お待たせ致しました。お直し致しましたお品が、こちらになります」

濃紺のビロード地の台座(トレイ)に乗せられた品は、店内の照明が反射し、眩い光を放つ。
白いグローブをしたスタッフが微笑みながら、静かにその台座を目の前に置いた。

今のは幻聴?
『お直し』って、聞こえたんだけど。

夕映は恐る恐る隣りに座る人物へと視線を向けると、彼は納得とばかりに小さく頷き、台座へと手を伸ばした。

スローモーションのように視界が流れる。
バッチリメイクのスタッフが終始笑顔を向ける中、彼は台座からつまみ上げ、当然のように夕映の左手薬指にそれを嵌めた。

――――そう、ここは表参道にある、とある宝石店。
このブランドの表参道店は婚約指輪と結婚指輪専門の店舗らしい。

「うん、よく似合う」
「っ……」
「他にお直し箇所がなければ、こちらの書類にサインをお願いしたいのですが…」

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