白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
冷たい前菜から始まり、次々と上品に盛り付けられたお料理が運ばれてくる。
けれど、せっかくのお料理の味がいまいち分からない。
「あのっ、……そろそろ聞いてもいいですか?」
後回しにしていいことなんて何一つない。
勉強であれ恋愛であれ、目を背けてしまうことで、後で大きな打撃を受けることは夕映が一番分かっている。
白ワインを一口飲んだ彼は椅子に深く座り直し、足を組んだ。
「例のストーカー男、もう姿を見せなくなったんじゃない?」
「……はい。やはり、神坂さんのお陰だったんですね」
「俺が直接手を下したわけじゃないが、祖父の秘書に相談して、間接的に対処して貰った」
「……お手数お掛けしました。本当にありがとうございます」
彼が言うように、聞きたいことは一つじゃない。
指輪のこともそうだが、ストーカー男のことも聞きたかった。
謎が一つ解けはしたが、下ろせない貯金がどんどん増してゆく。
「具体的には興信所と弁護士が対応してくれたんだけど」
「え?」
「相手側との交渉に、俺の『婚約者』ということを前提に示談して貰ってるから」
「ッ?!……でも、神坂さんには婚約者の女性がいらっしゃるじゃないですか」
「いるね」
「っ……」
「でも実際は法律上の規定や手続きはなく、形式の決まりごともない」
「そうなんですか?」
「『婚約の不履行』として損害賠償や慰謝料を支払わねばならない場合があるが、婚約の相手側が訴えない限り、問題にはならないだろ」
「……そうですね」
「俺の場合、『結婚したい相手ができた時点で、婚約を解消する』ことになっているから、何ら問題はない」
婚約を破棄して、婚約する。
……ダメだ、非現実的で思考が追い付かない。