白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
(采人視点)

ストーカー男の素性を調べた結果、幼馴染だという元婚約者の女性は、雰囲気が彼女(ゆえ)に似ていた。
芯がしっかりしてそうな眼、すらりとした容姿。
上品そうで嫋やかな雰囲気なのに、あどけない笑顔がアンバランスな所も。
髪形こそ違えど、系統で言えば、知的系美人の部類でよく似ている。

四年制の大学で建築に関する指定科目を履修し、卒業後に建設会社に就職した。
その会社で二年間実務経験を積み、国家資格である一級建築士の資格を取得した。

バロック建築が好きな彼女はもっと広い世界へと羽ばたきたかったのだろう。
『違う恋がしたい』というのは建前の話で、実際は『恋愛』よりも『夢』を選んだのだ。
直ぐにでも結婚して家庭を築きたかった彼に、ついていけなくなったのだと思う。

結婚適齢期とも言える夕映に惹かれたのも何となく分かる。
雰囲気が元婚約者の彼女に似ていて、素っ気ない素振りも酷似していたら、勘違いしてしまうだろう。

けれど、所詮は赤の他人。
夕映は元婚約者じゃない。
俺の妻になる女性だ。
はき違えた感情を無鉄砲に押し付けられても困る。

だから、男に分かるように現実を突き付けてやった。
『挙式を控えている身なので、一方的な好意は迷惑だ』と。

マンションだけでなく周辺の防犯カメラの証拠も押さえ、ストーカー規制法に該当していることを伝えたのだ。
だが、返って来た言い訳が『付き合っているとは思えない』という自論。

医師として多忙だということを理由にしても、さすがにデートすらしてないのだから反論の余地がない。
ならば、具現化すればいいだけの話。

数か月先に予定していたことが、少し早まっただけ。
俺と結婚することに変わりはない。

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