白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです


「夕映、大変だったね」
「ごめんね、途中で抜け出して」
「いや、それは全然いいんだけど」

ホテルに戻った夕映は、幸せそうに両親への手紙を読んでいる真子の姿を見届けられた。
そして、披露宴が無事に終わり、ゲストの見送りも終わったタイミングで真子が声をかけて来たのだ。

「夕映、ちょっと来て」

着替えのために用意された控室に連れて行かれ、カチャッと鍵がかけられた。

「澪たちに聞いたんだけど、新郎が夕映に土下座したって…」
「……ん」
「まさかとは思うけど、彼なの?ねぇ、そうなの?」
「……うん、……将司だった」
「うそっ…。え、何で?どこで?いつから?」
「知らないよっ、聞きたいのはこっちの方だよっ」

上杉(うえすぎ) 真子(旧姓 岡田)。
中学からずっと仲がよくて、澪と史恵と四人でいつもつるんでいるけれど、真子は一番の大親友。

救急科専門医という不規則な勤務体制の中、ゆっくりと愛を育んで来たと思っていた。
そんな彼とのことを真子だけは知っている。

予期せぬ一次救命処置(BLS)で、混乱と緊張とが入り混じっていた夕映は、感情を完全に押し殺していた。
目の前に恋人がいようとも。
その恋人が新郎の恰好をしていようとも。
その彼が愛する女性を必死に助けて欲しくて懇願しようとも。
その女性との子供がお腹にいるのだと知らされても。

泣き喚くことも、怒り散らすことも、何一つできずにやり過ごした夕映。
真子の腕に包まれ、漸く自身の感情が息を吹き返した。

目尻から零れ落ちる涙。
華奢な肩が小刻みに震え、しゃくり上げるように嗚咽が漏れ出した。

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