白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
*
「『婚約』を理由に対処して頂いたのは理解できますが、さすがにこれは受け取れません」
「じゃあ、捨てれば?そこら辺で売ってる安い指輪で構わないから、通勤の時くらいそこに意思表示をして貰えれば」
「……」
『捨てれば?』だなんて簡単に口にするけれど、どう見ても百万円は軽く超える。
ダイヤの大きさから考えても、サラリーマンの月給では到底変えない代物だ。
それに、『中に刻印して貰っている』と彼は言った。
何て刻印されているのかは分からないが、エンゲージリングならば、それらしい刻印がしてあるのだろう。
―――だから、返品不可。
返すと言っても受け取らなそうだし。
売る?
熔かす?
弁償するにしても、恐ろしい額だろう。
まかり間違って捨てるだなんて選択、選べるはずがない。
こんな高価な指輪をポンと買えてしまえることにも驚きだが、彼があの雰囲気に場慣れしていることに温度差を感じた。
マンションといい、車といい、指輪といい。
夕映の日常には無い世界だ。
住む家、金銭問題、仮初の恋人、ストーカー対応、そして指輪。
日頃のお弁当や、今日のような食事の際の会計も入れたら数えきれない。
「もう返しきらないほど、沢山のご恩が…」
「フッ、やっと現実味を帯びてきた?」
「……」
余裕の笑みを浮かべる采人を視界に捉えた、その時。
腕組する彼の指元がキラッと光った。
「えっ……その指輪」
「今頃、気付いたのか?」
クククっと喉を鳴らしながら、彼はワイングラスへと手を伸ばした。
「『婚約』を理由に対処して頂いたのは理解できますが、さすがにこれは受け取れません」
「じゃあ、捨てれば?そこら辺で売ってる安い指輪で構わないから、通勤の時くらいそこに意思表示をして貰えれば」
「……」
『捨てれば?』だなんて簡単に口にするけれど、どう見ても百万円は軽く超える。
ダイヤの大きさから考えても、サラリーマンの月給では到底変えない代物だ。
それに、『中に刻印して貰っている』と彼は言った。
何て刻印されているのかは分からないが、エンゲージリングならば、それらしい刻印がしてあるのだろう。
―――だから、返品不可。
返すと言っても受け取らなそうだし。
売る?
熔かす?
弁償するにしても、恐ろしい額だろう。
まかり間違って捨てるだなんて選択、選べるはずがない。
こんな高価な指輪をポンと買えてしまえることにも驚きだが、彼があの雰囲気に場慣れしていることに温度差を感じた。
マンションといい、車といい、指輪といい。
夕映の日常には無い世界だ。
住む家、金銭問題、仮初の恋人、ストーカー対応、そして指輪。
日頃のお弁当や、今日のような食事の際の会計も入れたら数えきれない。
「もう返しきらないほど、沢山のご恩が…」
「フッ、やっと現実味を帯びてきた?」
「……」
余裕の笑みを浮かべる采人を視界に捉えた、その時。
腕組する彼の指元がキラッと光った。
「えっ……その指輪」
「今頃、気付いたのか?」
クククっと喉を鳴らしながら、彼はワイングラスへと手を伸ばした。