白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです

自分の左手薬指に納まる指輪と酷似しているデザインの指輪が、彼の左手薬指にも着けられている。
彼のは男性用だからなのか、嵌め込まれている石がブラックダイヤのようだ。

日本では珍しいが、海外ではペアエンゲージとして恋人同士で着けるのもよくある。
だからといって、一つでも相当高価な指輪なのに、ペアで買っただなんて…。
考えただけでも眩暈がしてくる。

「念のためにお聞きしますが、それも返品不可ですよね?」
「当たり前だろ」

怖いこわい、もう何なの…。
こういうのを何て言うんだっけ?
結婚詐欺ならぬ、結婚謀略?

「さっきも言ったけど、形だけ整えて納得させるなら安物だろうが、元彼から貰った物だろうが関係ない。だが、俺との婚約を明らかにするという点を踏まえれば、そこら辺の男が簡単に買えるような物じゃ意味がない。こうして俺もペアで着けていれば、確定的だろ」
「っっっ」
「それに、これらを目にする度に俺を大事にしたくなるはずだ」
「っ……えげつないですよ」
「そうか?」

しれっとした顔に腹が立つ。
何て腹黒なの?!
目の前の問題を解決するだけじゃなくて、私に恩を着せるためにあえてこれにしたんだ。

返すに返せず。
これまでの恩もあるから、言いたいことの十分の一も言い返せない。

夕映は膝の上に置かれた手をぎゅっと握り締めた。

「都内でも有数の大病院の御曹司」
「……?」
「医大を首席で卒業した外科医」
「??」
「暴力は振らないし、長身だし、男前だと思うけど」
「………」

自信に満ち溢れた表情。
“女性なら、見つめるだけで落とせる”と言わんばかりの、色気のある視線。

「捕まえろ、俺を」
「っ…」
「捕まえなかったら、絶対後悔するぞ」

射貫くように夕映へと真っすぐ向けられた視線。
緩急のある表情と口調に、不覚にも惹きつけられてしまう。

< 71 / 172 >

この作品をシェア

pagetop