白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
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「あの、……車は?」
「気にしなくていい。回収するように指示を出してある」
「へ?」
「自分の車を、知らない人に運転させるのは嫌いなんだ」
「……」

彼も私もレストランでワインを飲んだから、車を運転することができない。
だから、代行業者を呼ぶとばかり思っていたのに、ハイヤーが手配されていた。

運転手に告げられた住所は、今私が住んでいるマンションの場所。
当然のように、送り届けてくれるらしい。

どこまでも計算高いというか、手慣れているというか。
考えるだけ、無駄だと思えてくる。

久しぶりの飲酒ということもあるし、元々そんなに強い方じゃない。
仕事上がりの疲労感がある中。
走行の心地よい揺れと非現実的なことの連続で、夕映の緊張は限界に到達していた。

これ以上迷惑をかけれないと思うのに、瞼が重くなってゆく。

「………ぃな」

何か耳元で呟かれた気がしたが、夕映が意識を手離す方が一足早かった。



「んっ……」

スマホにスケジュールアラームがセットしてあるお陰で、寝坊せずに済んだ夕映。
ベッド脇に置かれたバッグの中からアラーム音が鳴り響いている。

「……えっ、……あっ!!」

出勤二時間前にセットされているアラームを止め、起き上がった夕映は、自分が着ている服で昨夜のことが一瞬で蘇った。
当たり前のように左手薬指に納まる指輪。
普段着けないから、物凄く違和感がある。

二日酔いではないが、別の意味で頭が痛い。
ストーカー被害から逃れることができたはずなのに、別のストーカー被害に遭っている気分だ。

「前世で、どんな大罪犯したんだろう……」

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