白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
寝ている私を運んで貰ったのだから、当然か。
寝顔を見られただなんて、最悪。
『母からメールが来ました。指輪の写メ、送ったんですね。まるで本当の親子みたい』
嫌味でも言ってやらねば、気が治まらない。
『上手く撮れたから、見せたくなって。サイズ聞いた手前、報告も兼ねて。お母さん、可愛い人だよね』
受信したメッセージと共に添付された写真は、私と彼の左手が並んでいるものだった。
一体、いつ撮ったのだろう?
……あ、この写真の背景、ベッドカバーの模様だ。
ということは、ベッドに運んだ時に撮ったのだろう。
本当に奸智に長ける人だ。
嫌味を言ったのに全然響いてない。
それどころか、私の知らない間に何度もやり取りをしているようだ。
私ですら、月に数回しかやり取りしないのに。
きっと彼のことだから、小まめに連絡を取っているのだろう。
シャワーを浴びる際に指輪を外してみたら、彼が言っていたように指輪の内側に刻印がされていた。
『Du bist mein Ein und Alles*From A to Y』
ドイツ語で『君は僕の唯一の人』という意味。
ドイツ語に関して言えば、必要な医療用語さえ覚えていれば試験には合格する。
第二外国語にドイツ語を選択しなければならないわけでもない。
国際学会の論文は英語だし、カルテに日本語で記載するのが大変なことは大抵英語を使う。
だから、ドイツ語が話せるレベルではない。
つい数分前にスマホで検索したくらいだ。
ドレッサーに向かい、出勤のためにメイクを施す。
視界に映る指輪が、現実を突き付ける。
彼の善意を無下にはできない。
例え、夕映の意と反していても。