白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
窓から見える直ぐ近くの場所に建設中の建物がある。
基礎工事段階なのだろうが、結構な騒音だ。
日中に睡眠することも多い夕映は、とにかく睡眠を重視している。
駅から少し離れていようが、周りに飲食店がなかろうが気にしない。
睡眠を阻害するような物件は、どうしても妥協できない。
内見せずに契約しようと思ったが、来て正解だった。
ウェブサイトに載せている情報だけでは、やはり無理なようだ。
「すみません。夜勤が多い医師なので、日中の騒音はできるだけ避けたくて」
「……そうなりますと、この物件ではお気に召しませんよね」
苦笑する営業マン。
ノリノリで問い合わせた手前、少し気が引ける。
けれど、ここでいい顔ばかりはしていられない。
あの人の条件を鵜呑みにはできないのだから。
「では、次の物件にご案内致します」
「お願いします」
店舗で打ち合わせし、今日は三か所案内して貰うことになっている。
夕映は小さな溜息を吐き、気を取り直した。
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「黒瀬様。本日はお忙しい中、ありがとうございました。またお時間のある時に、ご案内させて下さい。黒瀬様にご納得頂ける物件をご提案させて頂きます」
「こちらこそ、我が儘言ってすみません。お手数お掛けしますが、よろしくお願いします」
結局この日、三か所廻ってみたが、夕映が納得できる物件はなかった。
世の中、そんなに甘くはないらしい。
そもそも今住んでいる所が最高すぎて、どこもしょぼく見えるのだ。
贅沢を味わうと、なかなか元の生活に戻るのは難しいらしい。